建設業の許可制度に関するご相談の中で、「建築一式工事の許可を取得すれば、電気工事や内装仕上工事なども自由に請け負えるのではないか」というご質問は非常に多く寄せられます。結論から申し上げると、建築一式工事の許可は、他の専門工事の許可を代替するものではありません。この誤解は、建設業許可を取得した事業者の方が陥りやすい典型的なミスの一つであり、場合によっては無許可営業という重大な法令違反につながる危険性があります。本記事では、建設業法の根拠条文を踏まえながら、一式工事と専門工事の違い、それぞれの許可が必要となる場面、そして複数業種の許可を取得する際の実務的なポイントについて、わかりやすく解説いたします。
建設業法では、建設工事を全部で29業種に分類しており、それぞれの業種ごとに許可を取得することが原則とされています。許可を受けずに建設工事を請け負うことは、原則として禁止されており(建設業法第3条)、違反した場合には行政処分や罰則の対象となります。具体的には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があり、非常に重大な結果を招きかねません。
29業種は大きく、「一式工事」と「専門工事」の2つに分類されます。一式工事には「建築一式工事」と「土木一式工事」の2種類があり、専門工事には電気工事・内装仕上工事をはじめとする27種類が含まれます。この分類の違いを正しく理解することが、許可取得において非常に重要なポイントとなります。また、許可の種類には「大臣許可」と「知事許可」の区別もあり、2つ以上の都道府県に営業所を設ける場合は国土交通大臣の許可が、1つの都道府県内にのみ営業所を設ける場合は都道府県知事の許可が必要となります。
一式工事と専門工事は、その性質・目的・施工範囲が明確に異なります。以下のテーブルで比較をご確認ください。
| 項目 | 一式工事(建築一式工事) | 専門工事(例:電気工事・内装仕上工事) |
|---|---|---|
|
対象となる工事の性格 |
総合的な企画・指導・調整のもとに行う工事 | 各専門分野の施工を単独で行う工事 |
|
発注者との関係 |
元請として総合的にマネジメントする立場 | 各専門分野を単独または下請として施工する立場 |
|
代表的な工事例 |
新築工事・増改築工事(大規模なもの) | 電気設備工事・壁紙張り・床仕上げ工事など |
|
他業種の許可の代替 |
不可(専門工事の許可を代替しない) | 不可(他の専門工事や一式工事の許可を代替しない) |
|
軽微な工事の取扱い |
許可不要の範囲内であれば施工可能 | 許可不要の範囲内であれば施工可能 |
このように、一式工事と専門工事はそれぞれ独立した業種として位置づけられており、建築一式工事の許可を持っていたとしても、電気工事や内装仕上工事を単独で請け負うことはできません。一式工事の「一式」という言葉から「すべての工事を網羅できる」と誤解されることがありますが、これは法律上まったく根拠のない解釈です。この点は、許可申請をご検討の際に特に注意が必要なポイントです。
建築一式工事とは、建設業法上、「総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事」と定義されています。具体的には、新築の建物を建てる工事や、大規模な増改築工事がこれに該当します。ただし、単なる外壁塗装や屋根の葺き替えのみといった、建物の一部分のみに係る工事は建築一式工事には該当しないとされており、この点についても誤解が生じやすいため注意が必要です。
建築一式工事の許可で施工が認められる範囲は、あくまでも「建築物を総合的に建設する工事全体」であり、そこに付随して発生する電気工事や内装仕上工事は、建築一式工事の一部として元請が統括・管理する範囲にとどまります。つまり、元請として全体を取りまとめる立場においては建築一式工事の許可が必要であり、その中で発生する各専門工事を下請業者に発注することは可能です。
しかし、電気工事や内装仕上工事を単独の専門工事として直接請け負う場合には、それぞれの業種に対応した専門工事の許可が別途必要となります。また、建築一式工事の許可を持つ元請業者が、自社の職人で専門工事を直接施工する場合も同様に、当該専門工事の許可が必要です。この点は実務上よく見落とされるケースであるため、十分にご注意ください。
電気工事や内装仕上工事を単独で請け負う場合に必要となる許可業種は以下のとおりです。
| 請け負いたい工事の内容 | 必要な許可業種 |
|---|---|
|
電力設備・照明設備・動力設備などの電気工事 |
電気工事業 |
|
壁紙・床材・天井仕上げ・ボード工事などの内装工事 |
内装仕上工事業 |
|
給排水・衛生設備の配管工事 |
管工事業 |
|
建物の塗装工事 |
塗装工事業 |
|
左官・タイル・石工事 |
左官工事業・タイル・れんが・ブロック工事業・石工事業 |
|
鉄骨・鉄筋工事 |
鉄骨工事業・鉄筋工事業 |
|
防水工事 |
防水工事業 |
このように、施工したい工事の種類に応じて、それぞれ対応する業種の許可を個別に取得する必要があります。複数の専門工事を請け負いたい場合は、それぞれの業種ごとに許可申請が必要となる点にご注意ください。なお、許可申請にあたっては、各業種について専任技術者の要件を満たす技術者を営業所ごとに配置することが義務付けられており、この点が複数業種の許可取得における最大のハードルとなるケースが多く見られます。
建設業法には、「軽微な建設工事」については許可を必要としないという例外規定があります(建設業法第3条第1項ただし書き)。軽微な建設工事とは、以下の要件を満たす工事を指します。
| 工事の種類 | 軽微な工事の基準 |
|---|---|
|
建築一式工事 |
工事1件の請負代金が1,500万円未満の工事、または延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事 |
|
建築一式工事以外の工事(専門工事) |
工事1件の請負代金が500万円未満の工事(税込) |
したがって、電気工事や内装仕上工事であっても、1件の請負代金が税込500万円未満の軽微な工事であれば、許可なく請け負うことは法律上可能です。ただし、この軽微な工事の範囲はあくまでも例外的な取扱いであり、事業として継続的に専門工事を受注していくためには、やはり各業種の許可を取得することが強く推奨されます。
また、電気工事については建設業法とは別に電気工事業の業務の適正化に関する法律(電気工事業法)による登録・届出も必要となる場合があるため、注意が必要です。軽微な工事であっても電気工事業法の規制は適用されるため、電気工事を業として行う場合には、建設業許可の有無にかかわらず、電気工事業法に基づく手続きを別途行う必要があります。
結論として、建築一式工事の許可と専門工事の許可を重複して取得することは可能です。むしろ、元請として建築一式工事を請け負いながら、専門工事の一部も自社で直接施工したい場合には、当該専門工事の許可を別途取得しておくことが現実的かつ実務上合理的な対応策となります。
建設業の許可は業種ごとに管理されており、複数業種の許可を同一の事業者が取得することには何ら問題はありません。許可申請を同時に行うことも可能であり、申請手数料についても複数業種をまとめて申請することで効率的に手続きを進めることができます。ただし、業種ごとに専任技術者の配置が必要であり、要件を満たす技術者が社内にいるかどうかが許可取得の重要なポイントとなります。1人の技術者が複数業種の専任技術者を兼任できる場合もありますが、一定の要件が求められるため、事前に確認が必要です。
さらに、許可取得後も5年ごとの更新手続きが必要であること、また、経営業務管理責任者や専任技術者に変更が生じた際には速やかな変更届の提出が義務付けられていることも、あわせて念頭に置いておく必要があります。
本記事の内容を整理すると、以下のとおりです。
| 確認事項 | 結論 |
|---|---|
|
建築一式工事の許可で電気工事を単独受注できるか |
できない |
|
建築一式工事の許可で内装仕上工事を単独受注できるか |
できない |
|
電気工事を単独受注するために必要な許可 |
電気工事業の許可が別途必要 |
|
内装仕上工事を単独受注するために必要な許可 |
内装仕上工事業の許可が別途必要 |
|
軽微な工事(500万円未満)の場合 |
許可なく施工可能(ただし継続的な受注には許可取得を推奨) |
|
複数業種の許可を重複取得できるか |
可能(業種ごとに専任技術者の配置が必要) |
|
電気工事業法への対応 |
建設業許可とは別に電気工事業法上の登録・届出が必要 |
建設業許可の業種区分は複雑であり、取得している許可の範囲を誤って理解したまま工事を請け負うと、無許可営業として建設業法違反となるリスクがあります。「どの業種の許可が必要か」「自社の技術者で要件を満たせるか」「複数業種を効率よく取得するにはどうすればよいか」といったご疑問については、専門家である行政書士にご相談されることを強くお勧めいたします。当事務所では、建設業許可に関するご相談を随時承っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。