建設業許可の取得を検討する際、最初に判断しなければならない項目の一つが「知事許可」と「大臣許可」のどちらを取得するかという点です。名称から「大臣許可のほうが格上で、より多くの工事を請け負える」と誤解されることがありますが、実際にはそうではありません。この2つの許可区分は、請け負える工事の規模や種類ではなく、営業所をどの都道府県に設けるかという点によって決まるものです。本記事では、知事許可と大臣許可の違いを正確に理解したうえで、元請からの要請や事業拡大を検討している一人親方の方がどちらを選ぶべきかについて、実務的な観点から詳しく解説します。
知事許可と大臣許可を区別する基準は、非常にシンプルです。営業所が1つの都道府県内にのみ存在するか、それとも2つ以上の都道府県にまたがって存在するか、この一点だけで決まります。
| 許可の種類 | 営業所の所在 | 申請先 |
|---|---|---|
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知事許可 |
1つの都道府県内のみ | 各都道府県知事 |
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大臣許可 |
2つ以上の都道府県にまたがる | 国土交通大臣(地方整備局等経由) |
ここで重要なのが「営業所」の定義です。建設業法上の営業所とは、請負契約の見積もり・入札・契約締結等を行う事務所のことを指します。単なる作業場や資材置き場、連絡所などは営業所には該当しません。したがって、実際に工事を行う現場が複数の都道府県にまたがっていても、契約を締結する営業所が1つの都道府県内にのみ存在するのであれば、知事許可で対応できます。
例えば、鹿児島県に営業所を置く一人親方が、宮崎県や熊本県の現場で工事を行うケースは多々ありますが、営業所が鹿児島県内の1か所のみであれば、鹿児島県知事許可で問題ありません。工事の施工エリアと営業所の所在地は別物であるという点を、しっかりと理解しておく必要があります。
許可区分の判断基準以外にも、知事許可と大臣許可にはいくつかの実務上の違いがあります。主な違いを整理すると以下のとおりです。
| 比較項目 | 知事許可 | 大臣許可 |
|---|---|---|
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標準審査期間 |
都道府県の許可窓口 | 国土交通省地方整備局等 |
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標準審査期間 |
約30〜60日 | 約90〜120日 |
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申請手数料(新規) |
90,000円 | 150,000円 |
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申請手数料(更新) |
50,000円 | 50,000円 |
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許可番号の表記 |
○○県知事許可(般・特)第○○号 | 国土交通大臣許可(般・特)第○○号 |
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許可の効力範囲 |
全国で工事施工可能 | 全国で工事施工可能 |
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変更届等の提出先 |
各都道府県窓口 | 主たる営業所の地方整備局等 |
特に注目すべき点は、知事許可であっても全国どこでも工事を施工できるという点です。知事許可の効力は取得した都道府県内のみに限定されるわけではなく、日本全国の現場で工事を請け負うことが可能です。「知事許可だと他の都道府県では工事ができないのではないか」という誤解は非常に多いため、この点は特に強調しておきます。
また、審査期間と申請手数料においても両者には差があります。大臣許可は知事許可の約2〜3倍の審査期間がかかり、新規申請の手数料も60,000円高くなります。必要以上に大臣許可を取得しようとすることは、時間的にも費用的にも不必要な負担につながります。
元請からの要請や事業拡大を目的として建設業許可を取得しようとしている一人親方の方の場合、ほぼすべてのケースで知事許可の取得が適切です。その理由を具体的に説明します。
一人親方として活動している段階では、自宅や単一の事務所を営業所としているケースがほとんどです。複数の都道府県に営業所を設けることは、組織的な法人でなければ現実的ではありません。営業所が1つの都道府県内に収まっている限り、知事許可で十分です。
前述のとおり、工事を行う現場が複数の都道府県にまたがっていても、営業所の所在地が基準となります。「隣の県の現場にも行くことがある」という理由だけで大臣許可を取得する必要はありません。
知事許可は大臣許可と比較して審査期間が短く、申請手数料も低く抑えられます。元請からの許可取得期限が迫っている場合には、この審査期間の差が重要な意味を持ちます。
| 判断基準 | 一人親方の実態 | 結論 |
|---|---|---|
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営業所の数と所在 |
1都道府県内に1か所 | 知事許可で対応可能 |
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施工エリア |
複数県にまたがることがある | 許可区分に影響しない |
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審査期間 |
早期取得が望まれる | 知事許可(30〜60日)が有利 |
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申請費用 |
コストを抑えたい | 知事許可(90,000円)が安価 |
一人親方の段階では大臣許可が必要になることは稀ですが、将来的な事業拡大や法人化を見据えて、どのような場合に大臣許可が必要となるかを理解しておくことは有益です。
大臣許可が必要となる典型的なケースは以下のとおりです。
逆にいえば、以下のケースでは大臣許可は不要です。
営業所として認められるためには、専任の技術者が常勤していること、独立した事務スペースがあること、請負契約の締結権限を持つ担当者がいることなどの実体的な要件を満たす必要があります。単なる形式上の「支店登記」だけでは営業所とは認められないため、実態を伴った拠点かどうかを慎重に判断することが必要です。
事業が拡大し、複数の都道府県に実態を伴った営業所を設けることになった場合には、知事許可から大臣許可へ切り替える手続きが必要です。この手続きは「許可換え新規申請」と呼ばれ、大臣許可の新規申請として扱われます。
| 手続きの種類 | 内容 |
|---|---|
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許可換え新規申請 |
知事許可→大臣許可、または都道府県をまたぐ知事許可の切り替え |
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申請先 |
主たる営業所を管轄する地方整備局等 |
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審査期間 |
約90〜120日 |
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既存の知事許可 |
大臣許可が下りた時点で自動的に失効 |
許可換えの申請中も、既存の知事許可の効力は継続します。ただし、大臣許可が下りた時点で知事許可は失効するため、切り替えのタイミングを慎重に管理することが必要です。また、許可換え新規申請においても、取得要件(経営業務の管理責任者・専任技術者・財産的基礎等)を改めて満たしていることの証明が求められます。
知事許可と大臣許可の違いは、請け負える工事の規模や種類ではなく、営業所が何か所の都道府県に存在するかという一点で決まります。1つの都道府県内に営業所が収まるのであれば知事許可、2つ以上の都道府県にまたがる場合は大臣許可が必要です。
一人親方として活動している段階では、営業所が1か所であることがほとんどであり、知事許可の取得が適切な選択です。知事許可であっても全国どこでも工事を施工できることを忘れないでください。「自分はどちらの許可が必要か」「将来的に大臣許可への切り替えが必要になるか」など、許可区分の選択に不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。事業の実態と将来計画を踏まえた最適な許可取得プランをご提案いたします。