事業規模の拡大や新たなエリアへの進出に伴い、既存の営業所以外に新たな拠点を設ける場合、建設業許可においても適切な手続きが必要となります。建設業法における「営業所」とは、単なる作業場や資材置き場とは異なり、請負契約の見積り・入札・契約締結等を行う拠点として機能する場所を指します。したがって、新たに設ける拠点がこの定義に該当する場合は、変更届の提出が法律上義務付けられます。
営業所の新設に関する変更届は、建設業法第11条第1項に根拠を持ち、営業所の新設後30日以内に許可行政庁へ提出しなければなりません。この手続きを怠った場合は建設業法違反となり、罰則や行政処分の対象となる可能性があります。また、営業所の新設は単なる届出にとどまらず、新たな営業所に配置すべき人員や設備に関する要件を満たすことが前提となるため、事前の準備が非常に重要です。
新たな拠点が建設業法上の「営業所」に該当するかどうかの判断は、実務上重要な検討事項です。すべての事務所や作業場が「営業所」として届出対象となるわけではなく、以下の要件を満たす場所が営業所として扱われます。
| 判断基準 | 内容 |
|---|---|
| 機能的要件 | 請負契約の見積り・入札・契約締結等を恒常的に行う場所 |
| 物理的要件 | 独立した事務所スペースがあること(住居との明確な区分) |
| 人的要件 | 専任技術者が常勤していること |
| 継続性要件 | 一時的な使用ではなく、継続的に使用する拠点であること |
逆に、以下のような場所は原則として営業所には該当しません。資材置き場・作業場・工事現場に設置する現場事務所・単なる連絡所などは、請負契約の締結等を行わない限り建設業法上の営業所とはみなされません。ただし、実態として請負契約の締結等を行っている場合は営業所として扱われるため、拠点の実態に即した判断が求められます。判断に迷う場合は、管轄の許可行政庁または行政書士に確認することをお勧めします。
新たな営業所を設ける場合、その営業所において建設業を営むための許可要件を改めて充足している必要があります。中でも最も重要かつ実務上のハードルとなるのが、専任技術者の配置です。
建設業法第7条第2号および第15条第2号により、許可を受けた建設業者は各営業所に専任技術者を置くことが義務付けられています。専任技術者とは、許可を受けようとする業種に対応した国家資格または一定の実務経験を有し、その営業所に常勤して専ら技術上の管理を行う者のことです。
新たな営業所に配置する専任技術者が満たすべき要件は以下のとおりです。
| 要件の種類 | 内容 |
|---|---|
| 資格要件 | 対象業種に対応した国家資格の保有 または 一定年数の実務経験 |
| 常勤性 | 当該営業所に常勤していること(在籍・出勤の実態が必要) |
| 専任性 | 他の営業所の専任技術者との兼任は原則不可 |
| 雇用関係 | 申請者(事業者)との直接的な雇用関係があること |
一人親方が新たな営業所を設ける場合、自身が既存の営業所の専任技術者を兼ねているケースが多いため、新たな営業所の専任技術者として別の人材を確保する必要が生じます。これが営業所追加における最大の実務的課題となります。
営業所の新設に際して見落とされがちな重要事項が、許可の種別変更(知事許可から大臣許可への切り替え)の必要性です。
建設業許可は、営業所の所在地によって以下のように区分されます。
| 許可の種別 | 営業所の所在地 | 許可行政庁 |
|---|---|---|
| 都道府県知事許可 | 1つの都道府県のみに営業所がある | 各都道府県知事 |
| 国土交通大臣許可 | 2つ以上の都道府県に営業所がある | 国土交通大臣 |
現在、1つの都道府県内のみに営業所を持つ知事許可業者が、別の都道府県に新たな営業所を設ける場合は、知事許可から大臣許可への切り替え申請(般・特新規または知事→大臣の新規申請)が必要となります。この場合は単純な変更届ではなく、新規申請に準じた手続きが必要となるため、より多くの書類と時間が必要です。
逆に、同一都道府県内に新たな営業所を設ける場合は、引き続き知事許可の範囲内での変更届対応となります。営業所の新設を計画する際は、まず新たな拠点の所在地が現在の許可種別に影響を与えるかどうかを確認することが最初のステップです。
営業所の新設に伴う変更届として提出が必要な書類は以下のとおりです。同一都道府県内での追加の場合と、他都道府県への追加(大臣許可への切り替えが必要な場合)では、必要書類の量が異なります。
| 書類名 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 変更届出書(様式第22号の2) | 基本的な変更届書類 | 変更内容を記載 |
| 営業所一覧表 | 変更後の全営業所情報 | 新設営業所を追記 |
| 専任技術者一覧表 | 各営業所の専任技術者情報 | 新設営業所分を追加 |
| 専任技術者の資格証明書類 | 資格証・卒業証明書・実務経験証明書等 | 新任専任技術者のもの |
| 健康保険証の写し等 | 専任技術者の常勤性を証明する書類 | 雇用保険被保険者証等も有効 |
| 営業所の写真 | 外観・内部・表札等 | 実態確認のため |
| 賃貸借契約書の写し(賃借の場合) | 営業所の使用権原を証明 | 自己所有の場合は不要 |
特に営業所の写真については、外観・内部・看板・表札などを複数枚撮影して提出することが求められます。営業所としての実態(独立した事務スペース・什器備品の設置状況等)を視覚的に証明する重要な書類であるため、適切な状態で撮影することが必要です。
また、専任技術者の常勤性を証明する書類として健康保険証の写し(事業所名が記載されているもの)が求められるケースが多いため、事前に確認しておくことをお勧めします。
営業所の新設に伴う変更届の提出期限は、営業所の新設後30日以内です。この「新設後」とは、実際に営業所として機能し始めた日(開設日)を起算点とします。賃貸物件の場合は入居・使用開始日、自己所有物件の場合は実際に営業所として使用を開始した日が起算点となります。
提出先は現在の許可行政庁です。知事許可の場合は各都道府県の建設業担当窓口、大臣許可への切り替えが必要な場合は地方整備局等への申請が必要となります。
| 営業所の新設パターン | 必要な手続き | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 同一都道府県内への新設 | 変更届 | 管轄都道府県窓口 | 新設後30日以内 |
| 他都道府県への新設(大臣許可への切り替え) | 大臣許可の新規申請 | 地方整備局等 | 速やかに |
大臣許可への切り替えが必要なケースでは、切り替え申請の審査期間中も従前の知事許可が有効とされる扱いとなりますが、できる限り早期に申請を行うことが重要です。
営業所の新設を計画する際は、開設後の届出だけでなく、開設前の事前準備が成否を左右するといっても過言ではありません。特に以下の点について、計画段階から準備を進めることをお勧めします。
まず最優先で取り組むべきは専任技術者の確保です。新たな営業所に配置できる専任技術者の候補者を早期に特定し、資格・実務経験・常勤性の要件を満たしているかを確認します。採用が必要な場合は、採用活動から証明書類の準備まで相応の時間がかかるため、営業所開設の数ヶ月前から着手することが現実的です。
次に、営業所として適切な物件の選定が重要です。賃貸物件を使用する場合、建設業の営業所として使用することが賃貸借契約上認められているかを確認し、必要に応じて賃貸人の承諾書を取得しておく必要があります。また、独立した事務スペースの確保・表札や看板の設置・什器備品の配置なども、届出時の写真撮影に向けて整えておく必要があります。
営業所追加において最も多くのトラブルが生じるのが、専任技術者の常勤性・専任性に関する要件です。実務上よく見られる問題事例と注意点を以下に整理します。
既存営業所の専任技術者が新設営業所の専任技術者を兼任することは、原則として認められません。ただし、両営業所が同一の建物内または近接した場所にあり、常時連絡が取れる状態にあるなど、実質的に常勤性・専任性が確保できると認められる場合に限り、例外的に認められるケースもあります。この判断は許可行政庁によって異なるため、事前に管轄窓口に確認することが不可欠です。
また、新たに採用した従業員を専任技術者として届け出る場合、雇用関係の実態(雇用保険・社会保険への加入、給与の支払い等)が書類上確認できる状態にあることが求められます。形式的な雇用契約だけでは不十分であり、実態を伴った雇用関係の証明が必要です。
営業所を新たに追加する場合、新設後30日以内の変更届提出が法律上の義務であり、新たな営業所への専任技術者の配置が許可要件上の前提条件となります。また、他都道府県への新設の場合は知事許可から大臣許可への切り替えが必要となり、手続きの規模が大きく異なります。
営業所の追加は事業拡大の重要な一歩である一方、専任技術者の確保・物件の選定・書類の準備など、クリアすべき課題が多岐にわたります。計画段階から建設業許可に精通した行政書士に相談することで、要件の充足状況の確認・必要書類の準備・届出のスムーズな実施まで、一貫したサポートを受けることができます。営業所の追加を検討している方は、早めのご相談をお勧めします。