建設業許可を維持するためには、許可取得時に満たした要件を許可期間中も継続して充足し続けることが義務付けられています。その中でも、経営業務管理責任者(以下「経管」)と専任技術者は許可要件の根幹をなす人的要件であり、これらの人物が退職・死亡・資格喪失などによって要件を満たせなくなった場合、許可そのものの維持に直接的な影響が生じます。
一人親方として建設業許可を取得しているケースでは、事業主本人が経管と専任技術者を兼ねていることがほとんどであるため、この問題が顕在化するのは主に従業員を雇用している事業者や、今後事業規模を拡大していく段階において他者をこれらのポストに就けた場合です。しかし、事業成長とともに人的体制が変化する中で、経管や専任技術者の退職は決して他人事ではないリスクとして、許可取得時から意識しておくことが重要です。
経管または専任技術者に変更が生じた場合、建設業法第11条第3項に基づき、変更が生じた日から2週間以内に変更届を提出する義務があります。この2週間という期限は、商号変更や営業所変更に係る30日以内という期限と比べて著しく短く、実務上の対応を非常に難しくする要因となっています。
「退職の意思表示があった日」ではなく「実際に退職した日(変更が生じた日)」が起算点となるため、退職日が決まった時点から逆算して後任の確保と届出の準備を急ぐ必要があります。2週間という期間内に後任を確保し、その後任の証明書類を整えて変更届を提出するという作業は、準備なしには到底間に合いません。
| 変更事項 | 届出期限 | 根拠規定 |
|---|---|---|
|
経営業務管理責任者の変更 |
変更後2週間以内 | 建設業法第11条第3項 |
|
専任技術者の変更 |
変更後2週間以内 | 建設業法第11条第3項 |
|
商号・名称の変更 |
変更後30日以内 | 建設業法第11条第1項 |
|
営業所の新設・廃止 |
変更後30日以内 | 建設業法第11条第1項 |
この2週間という期限の短さが、事前の後継者確保がいかに重要であるかを如実に示しています。退職が決まってから慌てて対応するのではなく、常に後継者候補を意識した人的体制の整備が求められます。
変更届の提出期限内に後任の経管または専任技術者を確保できない場合、事業者は許可要件を欠いた状態(要件欠格)に陥ります。この状態が続くと、許可行政庁から指示処分・営業停止処分・許可取消処分といった行政処分が下される可能性があります。
特に深刻なのは、要件を欠いた状態でそのまま許可が存続しているように見えても、実態は無許可状態と同視されうるという点です。要件欠格の状態で許可が必要な工事を請け負い続けることは、建設業法違反のリスクを常に抱えることになります。
また、後任が確保できないまま時間が経過した場合でも、「後から後任を確保すれば問題が解消される」とは限りません。要件を欠いていた期間の長さや、その間の営業実態によっては、許可取消処分の対象となる場合があります。要件欠格の状態を長期間放置することは、事業継続の観点から極めて危険です。
| 要件欠格の継続期間 | 想定されるリスク |
|---|---|
| 2週間以内に後任確保 | 変更届の提出で対応可能 |
| 数週間〜数ヶ月 | 指示処分・営業停止処分のリスク |
| 長期間(数ヶ月以上) | 許可取消処分のリスクが高まる |
| 後任確保の見込みなし | 廃業届の提出を検討すべき |
後任の経管として認められるためには、建設業に関する一定の経営経験を有していることが必要です。令和2年の建設業法改正により、経管の要件は従来よりも柔軟化されましたが、依然として一定のハードルがあります。
主な経管の要件は以下のとおりです。
| 要件の種類 | 内容 |
|---|---|
|
経営業務の管理責任者としての経験 |
建設業の経営業務を5年以上管理した経験 |
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経営業務の管理責任者に準ずる地位での経験 |
経営業務を補佐した経験6年以上 |
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常勤役員等+補佐者の組み合わせ(改正後) |
一定の経営経験を持つ役員等と補佐者の組み合わせ |
一人親方の場合、後任の経管として自分以外の人物を立てるためには、その人物が上記いずれかの要件を満たしていることを証明する書類(過去の契約書・注文書・確定申告書等)を揃える必要があります。経管要件の証明書類の収集は非常に時間がかかるため、退職後2週間以内という期限内での対応は現実的に困難であることが多く、これが事前準備の重要性をさらに高める理由となっています。
専任技術者の後任として認められるためには、許可を受けている業種に対応した国家資格または実務経験を有し、当該営業所に常勤して専ら技術上の管理を行うことができる人物であることが必要です。
| 証明方法 | 必要な内容 | 主な証明書類 |
|---|---|---|
|
国家資格による証明 |
対応業種の国家資格の保有 | 資格証の写し |
|
実務経験による証明 |
10年以上の実務経験 | 契約書・注文書等10年分 |
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指定学科卒業+実務経験 |
高卒5年・大卒3年の実務経験 | 卒業証明書+実務経験証明 |
専任技術者については、同一人物が複数の営業所の専任技術者を兼任することは原則として認められません。したがって、複数の営業所を持つ事業者が一人の専任技術者に依存している体制は、その人物が退職した際に複数の営業所が同時に要件欠格となるリスクをはらんでいます。
また、専任技術者は当該営業所への常勤性が必須要件であるため、後任候補者が他の事業者に雇用されている場合は、その雇用関係を解消したうえで自社に常勤する形をとる必要があります。
一人親方として建設業許可を取得しているケースでは、事業主本人が経管と専任技術者を兼ねていることがほとんどです。この場合、本人が廃業する・重病で業務継続が困難になる・死亡するといった事態が生じない限り、退職による要件欠格は発生しません。
しかし、将来的に従業員を雇用して事業を拡大する段階では、人的体制の整備が急務となります。事業が軌道に乗り、経管や専任技術者として他の人物を配置した瞬間から、その人物の退職リスクが許可維持に直結する問題となります。
また、R2.10.1施行の改正建設業法で新設された相続による許可承継制度は、個人事業主が死亡した場合に相続人が許可を引き継げる仕組みですが、相続人が経管・専任技術者の要件を満たさない場合は承継が認められません。万が一の事態に備えて、要件を満たす後継者候補を早い段階から育成・確保しておくことが、長期的な事業継続の観点から非常に重要です。
経管や専任技術者の退職が予想される場合(定年・転職の意向・健康上の理由等)には、退職日が確定する前から計画的な対応を進めることが不可欠です。
まず、後任候補者の要件確認を早期に行います。社内に要件を満たす候補者がいる場合は、その人物の資格・経験の証明書類を事前に整備しておきます。社内に候補者がいない場合は、要件を満たす人材の採用活動を早期に開始する必要があります。
次に、証明書類の事前準備です。経管の要件証明には過去の経営経験を示す書類、専任技術者の要件証明には資格証や実務経験証明書類が必要です。これらの書類は収集に時間がかかることが多いため、退職が決まる前から準備を進めておくことが理想的です。
| 事前対応のタイミング | 具体的な対応内容 |
|---|---|
|
退職の兆候がある段階 |
後任候補者の要件確認・社内調整開始 |
|
退職の意思表示後 |
証明書類の収集・行政書士への相談 |
|
退職日の1ヶ月前 |
変更届書類の準備完了・提出体制の整備 |
|
退職日から2週間以内 |
変更届の提出(法定期限) |
後任の経管または専任技術者をどうしても確保できない場合、最終的な選択肢として廃業届(許可の取消届)の提出を検討しなければなりません。要件を欠いたまま許可が存続している状態を長期間放置するよりも、自ら廃業届を提出して許可を返上するほうが、法令遵守の観点からは適切な対応といえます。
廃業後に改めて要件を充足できる状況になれば、新規申請によって許可を再取得することは可能です。ただし、廃業から再取得までの期間は無許可状態となるため、許可が必要な規模の工事を受注できなくなります。この期間をできる限り短くするためにも、廃業を決断した段階で直ちに新たな体制整備と新規申請の準備を並行して進めることが重要です。
経管や専任技術者が退職した場合の対応は、退職後2週間以内の変更届提出という非常に短い期限との戦いです。この期限内に後任を確保して変更届を提出できなければ、要件欠格という深刻な状態に陥り、最悪の場合は許可取消処分の対象となります。
この問題を根本的に解決するためには、退職が現実となってから動くのではなく、常に後継者候補を意識した人的体制を整備しておくことが最善策です。建設業許可の維持において、財務要件や書類管理と同様に、あるいはそれ以上に人的要件の継続的な管理が重要です。経管・専任技術者の体制に少しでも不安を感じている方は、建設業許可に精通した行政書士に早めにご相談ください。