確定申告書(青色申告決算書)は、所得税法に基づいて税務申告を行うための書類であり、税務署への提出を目的として作成されます。一方、経審で使用する財務諸表は、建設業法施行規則に定められた省令様式(様式第15号〜第17号の2)に基づいて作成する必要があります。この2つは様式・勘定科目の分類・記載方法がまったく異なるため、確定申告書をそのまま転用することは法令上認められていません。
確定申告書に記載されている勘定科目は、税務上の分類に基づいています。これを経審用財務諸表に転記する際には、国土交通省告示で定められた勘定科目の分類基準に照らして科目を組み替える作業が必要です。たとえば、税務申告書では「売上高」と一括計上されている収入であっても、経審用財務諸表では「完成工事高」と「兼業事業売上高」に分けて記載しなければなりません。
個人事業主が経審を受けるにあたって作成が必要な財務諸表は、主に以下のとおりです。これらはすべて建設業法施行規則に定められた省令様式(様式第18号、第19号)で作成する必要があります。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 貸借対照表(様式第18号) | 資産・負債・純資産の状況 |
| 損益計算書(様式第19号) | 完成工事高・費用・利益の状況 |
確定申告書そのものを経審に提出することはできませんが、経審用財務諸表を作成するための根拠資料としては活用します。具体的には、青色申告決算書の損益の数値や、固定資産台帳の内容などをもとに、省令様式に沿った財務諸表を新たに作成します。また、消費税の課税事業者である場合は、消費税抜きの数値で財務諸表を作成する必要があるため、税込・税抜の処理にも注意が必要です。
個人事業主の場合、事業で使用している資産と個人の資産が明確に分離されていないケースがあります。経審用の貸借対照表を作成する際には、事業の用に供している資産・負債のみを計上することが原則です。たとえば、自宅兼事務所の不動産や、事業と私用を兼用している車両などは、事業専用割合に応じた按分が必要になる場合があります。
法人の場合、貸借対照表の純資産合計が自己資本額となりますが、個人事業主の場合は「元入金」が自己資本額に相当する勘定科目となります。元入金は、前年の元入金に青色申告特別控除前の所得金額・事業主借を加え、事業主貸を差し引いて算出されます。この計算を正確に行わないと、X2点(自己資本額点数)の算出に誤りが生じるため、細心の注意が必要です。
確定申告書をもとに経審用財務諸表を作成する際の基本的な流れは以下のとおりです。ステップごとに専門的な判断が求められるため、行政書士・税理士との連携が不可欠です。
| ステップ | 作業内容 |
|---|---|
| Step1 | 青色申告決算書・固定資産台帳などの根拠書類を収集する |
| Step2 | 消費税の課税区分を確認し、税抜処理の要否を判断する |
| Step3 | 勘定科目を省令様式の分類基準に従って組み替える |
| Step4 | 完成工事高と兼業売上高を分類・整理する |
| Step5 | 事業用資産・負債のみを抽出して貸借対照表を作成する |
| Step6 | 元入金を正確に計算して純資産の部を完成させる |
経審用財務諸表の作成においては、税理士と行政書士がそれぞれ異なる役割を担います。会計・税務上の判断(科目の振り替え・按分計算・税抜処理など)は税理士の領域であり、経審専用の省令様式への落とし込みや申請手続きは行政書士の領域です。両者が連携することで、正確かつスムーズな申請が実現します。一人親方の方は、早めにこの2者への相談を検討することをお勧めします。
税理士が作成した青色申告決算書はあくまでも税務申告用の書類であり、そのまま経審に使用できる様式ではありません。税理士が経審用の省令様式に精通していない場合、別途作成を依頼しても対応できないケースがあります。経審に慣れた行政書士に早めに相談し、税理士との橋渡しをしてもらうことが重要です。
建設工事以外の収入(たとえば、資材販売・草刈り・清掃業務など)がある場合、それらは「兼業事業売上高」として完成工事高とは明確に分離して計上しなければなりません。これを混在させたまま申請すると、完成工事高が過大計上となり、虚偽申請とみなされるリスクがあります。確定申告書では一括計上されていることも多いため、内訳の整理が必要です。
確定申告書(青色申告決算書)は、経審用財務諸表を作成するための根拠資料にはなりますが、そのまま経審に提出・使用することはできません。経審では建設業法施行規則に定められた省令様式の財務諸表が必要であり、勘定科目の組み替え・事業用資産の区分・消費税の処理など、専門的な作業が伴います。個人事業主(一人親方)の場合は特有の注意点も多いため、税理士と行政書士が連携して対応することが、正確な申請への近道です。経審の準備は決算後できるだけ早く着手し、余裕をもって専門家へご相談されることをお勧めします。