宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)第2条第2号では、宅建業を「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」と定義しています。つまり、「自ら売買」を業として行う行為は、明確に宅建業の規制対象に含まれているのです。
実務でしばしば混同されるのが、「自ら貸借(自己所有物件を自ら賃貸する行為)」との違いです。自ら貸借は宅建業に該当しませんが、自ら売買は明確に宅建業に該当します。この違いを誤解したまま事業を開始すると、無免許営業として重大な法令違反を犯すおそれがあります。
取引態様ごとの該当性を整理すると、次のとおりです。
| 取引態様 | 売買 | 交換 | 貸借 |
|---|---|---|---|
| 媒介 | 該当 | 該当 | 該当 |
| 代理 | 該当 | 該当 | 該当 |
| 自ら | 該当 | 該当 | 非該当 |
不動産売買は、消費者にとって生涯に何度もない高額取引です。売主が宅建業者である場合、買主は「専門知識を持つ事業者を信頼して取引する」立場に立たされるため、宅建業法上の各種規制によって買主を保護する必要があります。重要事項説明、契約書面の交付、クーリングオフ、手付金等の保全措置といった規制は、この観点から設けられているものです。
自ら貸借が規制対象外とされているのは、賃貸借では取引金額が比較的小さく、借地借家法等の他法令によって借主が保護されていることが主な理由です。一方、売買では所有権移転を伴う高額取引であり、宅建業法による独自の規制が必要とされています。
宅建業法上の「業として行う」とは、①不特定多数の者を相手方として、②反復継続して取引を行うことを指します。両要素を総合的に勘案して判断されることになります。
国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」では、業該当性について次の6つの観点から判断するとされています。
| 判断項目 | 業に該当しやすい例 | 業に該当しにくい例 |
|---|---|---|
| 取引の対象者 | 広く一般の者 | 特定の親族・知人等 |
| 取引の目的 | 営利目的が明確 | 相続・自己居住等 |
| 取引対象物の取得経緯 | 転売目的で取得 | 相続・自己使用目的で取得 |
| 取引の態様 | 自ら購入者を募る | 代理・媒介を依頼 |
| 取引の反復継続性 | 反復継続的・予定あり | 1回限り |
| 取引の規模 | 区画割・大規模 | 個別・小規模 |
不動産会社が新築分譲マンションを自社で建築・販売する事業、中古物件を仕入れてリノベーション後に転売する買取再販事業、自社で取得した土地を区画割して一般消費者に分譲する事業などは、いずれも「自ら売買」を業として行うものであり、明確に宅建業免許が必要です。
一方、個人が自宅を売却する行為、相続により取得した1区画の土地を売却する行為、事業会社が長年使用してきた自社ビルを売却する行為などは、反復継続性がなく、原則として免許は不要です。ただし、これらも繰り返し行えば業該当性が認められる可能性があります。
相続した広大な土地を複数区画に分割して順次売却する場合や、自社保有の不動産を計画的に複数回に分けて売却する場合などは、個別事情により判断が分かれます。事前に行政庁や行政書士へ相談することをおすすめいたします。
無免許で宅建業を営んだ場合、宅建業法第79条により3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)が科される可能性があります。これは宅建業法上、最も重い罰則のひとつです。
無免許営業が発覚した場合、取引相手から契約の解除や損害賠償請求を受けるリスクがあります。また、金融機関からの融資にも影響し、事業継続自体が困難となるおそれがあります。
無免許営業で処分を受けた場合、その後一定期間は宅建業免許を取得できなくなる欠格事由に該当するおそれがあります。独立後の事業展開を見据えても、無免許営業は絶対に避けるべきです。
宅建業者が自ら売主となり、宅建業者でない買主と取引を行う場合には、「8種規制」と呼ばれる買主保護のための特別規制が適用されます。具体的には、クーリングオフ、手付金等の保全措置、手付金額の制限、契約不適合責任の特約制限などです。
主な規制内容は次のとおりです。
| 規制項目 | 主な内容 |
|---|---|
| クーリングオフ | 事務所等以外で買受けの申込みをした場合、書面により解除可能 |
| 手付金等の保全措置 | 一定額を超える手付金等を受領する場合に保全が必要 |
| 手付金額の制限 | 代金の20%を超える手付金の受領禁止 |
| 損害賠償額の予定 | 代金の20%を超える損害賠償額の予定の禁止 |
| 契約不適合責任の特約制限 | 民法より買主に不利な特約は無効(通知期間を引渡しから2年以上とする特約は可) |
買取再販を行う場合、これら8種規制(自ら売主規制)はすべての取引に適用されます。実務上は、契約書面の整備、保全措置を講じるための保証委託契約の締結等、入念な準備が必要となります。
独立開業にあたっては、ご自身が行おうとする事業が「自ら売買」「媒介」「代理」のいずれに該当するのかを最初に整理することが重要です。買取再販を中心に据えるのか、仲介を中心に据えるのかで、必要な資金計画や体制も大きく異なります。
宅建業免許取得後に営業を開始するには、営業保証金(本店1,000万円)の供託、または保証協会への加入(弁済業務保証金分担金60万円)のいずれかが必要です。自ら売買を中心とする買取再販事業の場合も、この点は同様です。
事業計画の段階から許認可に精通した行政書士に相談することで、免許要否の判断、申請手続き、開業後の事業者DB登録や届出までを一貫してサポートしてもらえます。独立開業をスムーズに進めるためにも、早期相談をおすすめいたします。
自社所有物件の売買であっても、不特定多数を相手に反復継続して行う場合は明確に宅建業に該当し、免許の取得が必要です。「自社の物件だから不要」という誤解のもとに無免許営業を行えば、3年以下の拘禁刑等の重い罰則が科されるだけでなく、その後の事業展開にも深刻な影響が及びます。また、自ら売主となる取引には8種規制(自ら売主規制)という買主保護規制も適用されるため、適切な体制整備が不可欠です。独立開業をご検討の際は、事業スキームの整理と免許取得の準備を早めに進めていただくことをおすすめいたします。